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中・米貿易戦争は台湾の実業界にパニックを引き起こしました。7月6日までは、台湾の実業家たちは、トランプ大統領の中興通訊(ZTE・深圳の通信設備、端末製造会社)に対する態度が揺れ動いていたので、貿易戦争が始まるかどうか様子見の姿勢でした。しかし、7月6日には、米国は中国輸出品に対する最初の課税措置を発動、それまでの530億ドルの中国産品に対する課税措置以外に、更に2000億ドルの関税が課されました。それ以来、台湾実業界は、どっちにつくべきなのか考えています。
★中・米貿易戦争の硝煙に巻き込まれた台湾実業界
中国の対米輸出番付のトップ10はいずれも外国資本企業で、台湾資本の企業が8社あります。鸿富锦精密电子郑州、成都(富士康系)、达功计算机(クアンタ系)、昌硕科技(ASUS系)、名硕计算机(ASUS系)、仁宝信息技術などで、他に、シンガポール、アメリカの企業があります。
中国の対米輸出ベスト100企業には、外資企業が7割を占め(台湾が4割)、中国大陸資本はわずか3割です。2017年、台湾の中国大陸と香港への輸出総額は1,302億ドルで、台湾の輸出総額の41%です。そのうちの7割が、パーツか半製品であり、さらに中国大陸で組み立てられて最終製品となった後、再び米国を含む輸出先へ向けられるものもかなりあります。
中国大陸が台湾実業界と台湾経済に果たす役割は、これほど重要です。ですから、トランプがこの3月下旬に、中・米貿易戦争を宣言した時、アナリストたちは、台湾は中・米貿易戦争による重大な被害を受けかねないと警告しました。
最初のうちは、台湾実業家たちは、これは米国の脅しだから、すぐ終わるだろうと期待していました。なんといっても中国で長年、企業経営にあたってノウハウも豊かで、地元地方政府とも良い関係を築き上げ、中には富士康のように子会社を二つ以上持っていたり、それ以上持っている企業もありますから、資本撤退などしたら大変です。
しかし、中・米貿易戦争の結果というのは、まさに外資が中国から撤退を迫られるということなのです。
★台湾実業界の困難
台湾企業(主として製造業)は、大挙して中国から撤退して、米国投資や南アジアに避難するでしょうか?全く考えていないということはないでしょうが、しかし、これは実に大変なことです。そうでなければ、蔡英文総統が当選後に言い出した「新南向政策」(*東南アジアなど投資奨励政策)が、さっぱり思わしい反応が得られなかった、などということは起きなかったでしょう。
しかし、今年6月に、行政院の政務委員会委員・鄧振中が率いた124人からなる訪問団の「米国投資サミット」には、66参加国で、台湾が最大でした。このツアー目的は、台湾実業家の米国投資環境考察支援でした。
鴻海精密工業の会長、郭台銘が30年で世界トップレベルの富を築き上げたのは理由があってのことです。チャンスに対しての鋭敏な感覚です。おそらく香港の不動産王、李嘉诚に匹敵するでしょう。それ以外でも彼の力は他の台湾ビジネスマンとは比べものになりません。
プロ筋の分析では、台湾の実業家が工場を移転する際の困難は、それぞれの産業によって異なります。例えば、鉄鋼業だと台湾国内での環境評価への厳しさから、海外進出の意欲は比較的大きなものがあります。しかし、ICチップや電子部品工業の場合だと、ハイテクには膨大な産業チェーンが必要なので、移転にあたって検討すべきプロジェクトが多すぎるほどあります。
簡単に言えば、比較的単純な伝統産業は米国への投資に意欲がありますが、ハイテク業界は慎重なのです。台湾の実業家が、ゲームの舞台を換えるには、まず米国ブランドの小売業界の意向を考慮しなければなりません。もし彼らが、関税分を小売価格に上乗せするのを嫌がるなら、それはつまり、粗利が10%未満の電子産業から見れば、米国からの発注を失うに等しいことになります。
中国大陸の電子部品供給チェーンの一環である台湾ビジネスマンにとって、最も心配なのは、ブランド小売業の発注先が他の国に行ってしまうことではありません。ODM(委託者のブランドで製品を設計・生産すること)能力では、競争相手がいないからです。しかし、チェーンの中から誰かが離脱して、外注先を奪ってしまうとなれば、今のバランスは失われ、チェーンは混乱します。
台湾実業界には、中国政府が、台湾実業家の内部団結を守るような政策を採って欲しいと願う向きもあります。しかし、この貿易戦争の前途を見通せないでいる北京にとって、現在、そこまでやる力はないということをご存知ないのです。
★南アジア?それともアメリカ?
第二波の制裁の後、台湾の政界、実業界、学界の人々はようやく、この貿易戦争が口先だけのやり取りで終わらず、台湾実業界の未来のためには、どちらにつくかを考えなければならないのだ、と悟りました。
米国は、中国の「中国製造2015」計画を標的にしています。これは台湾企業に二つの影響を与えかねません。一つは、中国大陸での台湾企業の生産投資があまりにも多く、大陸の企業と結びつきが深すぎます。ですから、米国は技術移転の数々の制限を行うために、台湾の供給チェーンは、当然その影響を受けます。
もう一つは、中国大陸から、米国のハイテク革新技術や部品を得ることができなくなったら、そうした品々を米国以外に発注するようにならざるを得ず、その注文が台湾の業界に来るという利益を得られるかもしれないことです。そうした影響は大変複雑なので、台湾の学者は、中・米貿易戦争によって双方が課税を強化するのだから、台湾のビジネスマンは台湾回帰か、あるいは第三国への投資を考慮すべきだと考えています。また、蔡英文のさっぱり人気の出なかった「新南向き政策」にとっては、これは希望になるかも、という見方もあります。
これには反対の、東南アジアなどの政治環境の不確定性による投資の危険性や、そうした国家の法的な透明度の低さ、法律の解釈次第でどうにでもなってしま余地が大きいこと、政府の腐敗ぶりなどが、投資資本に対する不安となる、という見方もあります。ですから、現在、台湾政府は、「新南向政策」でお気に入りの南の国々とは、投資への保証を効果的な協定として結ぶべきでしょう。
1970年代後期から始まった世界の資本の流動ルールは、10年から15年の周期を持っています。その特徴は前と違ってきました。以前なら先進国から発展途上国へ流れていました。特に1990年代には、米、英、ドイツ、フランスなどが連携して、グローバル化を推進し、中国はその最大の受益者でした。しかし、今回の中・米貿易戦争では、米国のトランプ大統領だけが、グローバル化の構造を変えようとしているのですが、グローバル資本は、まさに米国に流れ込んでいます。
米英の左派メディアの大御所であるフィナンシャル・タイムズとニューヨーク・タイムズ紙がともに、米国がその盟友を放棄したと批判し、英国の左派エリートたちが「誰が『われらのアメリカ』を失わしめたのか」と騒いでいる今、台湾実業界、政界、学界は、グローバリズムが今逆転している事実を見据えて、台湾企業の対外投資の適地を新たに決めるべきでしょう。(終わり)
原文は;美中贸易战 台商何去何从