趙婷(クロエ・ジャオ)監督の映画「ノマドランド(Nomadland)」(訳注;アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像美とともに描いたロードムービー)が紹介された時、私はこの中国系アメリカ女性が、社会から見捨て荒れたモバイルホーム(キャンピングカー)暮らしの人々を追跡して映画にした、スゴイなと思ったものです。そして、この映画が第93回アカデミー賞では計6部門でノミネートされ、作品、監督、主演女優賞の3部門を受賞し、第78回ゴールデングローブ賞では映画作品賞(ドラマ部門)と監督賞を受賞したとき、世界各国の難民活動には熱心な米国NGOも、これで自国の漂白する人々の援助に立ち上がるだろうと思って、喜びました。
しかし、趙婷が、中国で「中国人の誇り」と持ち上げられてから、「中国を貶める奴」に世論が一変するのをまのあたりにして、この映画芸術家は、自分でも意識しないまま、米・中両大国のそれぞれの社会の病を反映したことを知りました。米国では2千万人のモバイルホームに住む貧困層は「部屋の中のゾウ」として見て見ぬ振りをされています。中国の病とは相変わらず、偽りにみちた傲慢な「国家の自信」です。
★部屋の中のゾウ
趙婷監督のこの「ノマドランド」は、は、ジャーナリストのジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」(Nomadland: Surviving America in the Twenty-First Century)を基にした映画です。リーマンショックのの真っ只中にいて、すべてを失った60代の白人女性が、モバイルホームで暮らす現代の「ノマド」として、終わりのない放浪生活を始めるというストーリーです。
モバイルホーム暮らしは、今世紀始め、中国のメディアの中途半端な紹介をされて、車で世界を旅するロマンチックな生き方だと誤解されました。2008年9月の「都市週報」には「ニューノマド暮らし 海外の『幌馬車』ファミリーの楽しい人生」はそういった紹介をしています。
しかし、ジェシカ・ブルーダーが本の中で描いている人々は、米国では少なくなくありません。ちょっと注意してみればその存在がわかります。ニュージャージー州の森林公園のそばには、何百人ものこうした家族が住んでいます。
ジェシカ・ブルーダーは、「国の静脈を流れる血液細胞のように、2008年のリーマン不況をきっかけに、ますます多くの高齢者や中産階級、労働者階級の人々が 、仕事を求めてさまざまなタイプのモバイルホームで国内を横断し、難民となったのだ」と書いています。
こうした人々はどれほどいるのでしょうか? 卞中佩は、モバイルハウスの歴史と実際の原因について、1970年には200万人以上、1980年には400万人以上、2000年には900万人近くになったという数字を挙げています。()現在、モバイルホームに住むアメリカ人の数は、現在2千万人を超えており(1,800万人説もある)、全米には38,000箇所以上のモバイルホームパークがあるといわれます。
★漂泊の他に道なく
以下の「Mobile Homeland」からのデータは居住者の経済状態を示しています。
:モバイルホームの平均的な世帯の年収は2.84万ドルで、居住者のトップグループはZ世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)で約23%、2番目はベビーブーマー(概ね1946年から1964年頃までに生まれた世代)で約22%です。15%は障害や能力不足のために失業しており、16%は主婦です。 このうち、「RV車で自由にドライブ旅行に出かける家族」という中国人のイメージと一致する年収10万ドル以上の人々はたった5%弱です。
Z世代は社会に出たばかりで、経済的に余裕がないということは世界共通です。22%の老年人口がモバイルハウス住まいになるなら、ノマド人口推計の1800万〜2000万人から計算すると400万人ぐらいでしょう。
ブルーダーの著書に記載されている情報によると、2008年のアメリカのリーマンショックによる金融危機をきっかけに、多くのアメリカ人が家を失い、場合によっては仕事と一緒に家も失ったと言われます。
ブルーダーは、特に女性にとって社会保障給付は取るに足らないものだと指摘。さらに、執筆当時で最低賃金で働く人々がワンルームアパートを購入できたのは、全米で12の郡と1都市だけだったと述べています。
趙婷がこの小説を映画にすることで、視覚を通じて米国の早くから深刻に左翼化していた映画マーケットに衝撃を与え、様々な理由で無視されてきた大きな社会集団を世間に知らしめました。ゴールデングローブ賞にふさわしい作品でした。
このグループが無視されてきた理由は、今の米国ではあまりにもデリケートな問題であり、後日、機会があれば書いてみましょう。
★海外華人の祖国への複雑な思い
趙婷が最初中国で持ち上げられ、後になってけなされるようになったのは、中国人の内的な劣等感と歪んだ国家的自信、そして海外華人が祖国の文化的臍の緒から離れたくないという状態が関係しています。捻じ曲がった「国家の自信」が中共支持者たちの内心を極度に脆弱なものにしており、その気持ちの表明が大変誇張されているのです。
海外の華人の誰かがちょっと成功すると、中国国内では、政府系の宣伝機関も中共支持者の群れもみな、その栄光に陶酔状態になります。その人物が中国で育ったか、中国語が話せるか、中国に対して共感を持っているかにかかわりなく、一方的な思い込みで祖国に尽くす「統一戦線の標的」とみなされます。(訳注:「統一戦線」本来は、共通の敵を倒すために別々の軍が合同して戦うことだが、中共から言うと「党外各民主党派との共闘」ということになる。実際は海外中共プロパガンダの要素、要員のこと)
しかし、この「統一戦線の標的」が、趙婷のように中国のある種の社会現象や中国政府に批判的だったりすることが判明すると、中国の「ネット探偵団」は、2013年にアメリカの映画雑誌が行った彼女へのインタビューを発掘しました。このインタビューの中で趙婷は、中国を「嘘だらけ」と批判し、「結局、今はアメリカが私の国だ」と言ったのでした。 こうして、必然的に、趙廷は「中国人の誇り」から「中国を侮辱する者」「裏切り者」となったのです。こんな目に遭うのは趙婷一人ではありません。興味があればネットをさがせばよろしい。
海外の華人たちは自分たちの文化母体から離れたいとも思っていませんし、離れることもできない、という結果がオーストラリアの独立系シンクタンクであるローウィー・インスティテュートが行った調査で分かります。
3月上旬に発表した中国系オーストラリア人を対象とした調査『Chinese In Australia』によると、中豪関係が著しく悪化した2020年以降に実施されたこの調査は、中国系移民の移民先での地位のもろさや、母国との絡み合う心情を示しています。
多くの中国系オーストラリア人は、2020年以前には、オーストラリア社会で中国人への歓迎度がどんどん高まっていると感じていました。しかし、2020年以降は、調査対象者の半数近くが、オーストラリアの政治に対する中共の影響力を懸念するようになりました。約20%が、過去1年間に身体的な脅迫や攻撃を受けたと答えており、そのほとんどが新型コロナウイルス流行による緊張や豪州政府と北京の間の敵対関係が原因だとしています。また、約3分の1が言葉による虐待や差別的な扱いを受けたと答えています。
この調査の発案者の一人であるナターシャ・カッサム氏は、「この調査は、一般の中国系オーストラリア人が、政治的な緊張や憎しみの高まりによって打撃を受けていることを示している」と述べています。彼女は「オーストラリアにおける中国に関する広範な議論は、特に中国からの干渉や経済的圧迫という観点から、この1年で変化した」と指摘しています。
今回の調査では、オーストラリアの華人は主にWeChatや中国のメディアからニュースを入手していることが確認されました。回答者の約84%がWeChatで中国のニュースを読み、74%が新華社などの公式メディアの報道を含む中国本土のニュースを読んでいます。
また、オーストラリアのメディアの中国報道が公正でバランスのとれたものであると考えているのは、3人に1人しかいませんでした。
最も興味深いのは、この一連のデータです。調査対象者の64%が民主主義に関心がなく、43%が中共政府を以前よりも好きになったと言っていることです。
この一連のデータは、2つの問題点を示しています。それは、中国人とオーストラリアのコミュニティの間だけでなく、中国人コミュニティ内部でも、中共の政治体制や民主主義に対する態度に大きな認知的な差異があるということです。
海外の華人は中国が嫌いだったり、より良い生活がしたいという理由で海外に出たのですが、移住先での苦労や、遠くからみる「祖国の美点」の間に挟まって、多くがオーストラリア華人のような状態にあるのです。
最後に趙婷問題をまとめて置くと、「ノマドランド」は本来、アメリカのモバイルホームの住人、つまりアメリカの地にさまよう「自国のエトランゼ」の苦境を描くことを意図していたのですが、中国人の海外華人と祖国という、海外華人の一種の精神的な苦悩という極めて複雑な情緒を刺激してしまったのでした。(終わり)
何清涟:赵婷一部影片带出了中美两国的社会病
2021-03-09
赵婷的《无依之地》出来后,我看了介绍,觉得这位华裔姑娘不简单,追踪被抛弃的社会群体——Mobile House(移动房)一族的生存状态并拍成影片。这部片子得奖后,我为移动房一族高兴,希冀忙于拯救各国难民的美国NGO也能伸出手来,帮助一下本国的无望漂泊者;等到赵婷在中国经历了从“ 华人的骄傲”到“辱华者”的舆论之变,突然发现这位电影艺术从业者的遭遇,竟然不经意间折射了中美两大国各自的社会病,美国之病在于这2000万移动房族的贫困者成了“房间里的大象”;中国之病乃在于虚骄的国家自信。
美国房间里的大象:2000万贫困者
赵婷这部《无依之地》影片,是以杰西卡·布鲁德(Jessica Bruder)那本《移动房一族:21世纪美国的飘移者》(Nomadland: Surviving America in the Twenty-First Century)为脚本拍摄,讲述一个60多岁的白人女子在经济大萧条中失去了一切,她作为一个居住在货车里的现代“游牧民”,开始了无尽期的漂泊生活。
对大部分中国人来说,在本世纪初,由于国内媒体一知半解的介绍,误将Mobile House当作美国人一种乘车游遍天涯的浪漫生活。2008年9月,《都市周报》一篇《新游牧生活:国外“大篷车”一族的写意人生》就是这样介绍的。但是我知道,杰西卡·布鲁斯在书中描绘的人在美国有不少,只要注意就会知道他们的存在。新泽西州一个森林公园旁边,就住有上百户这样的Nomadland。杰西卡·布鲁德(Jessica Bruder)写道,“像血细胞一样通过国家的血管移动”,越来越多的老年人、中产阶级和工人阶级在2008年经济衰退后成为难民,像琳达一样开着各种类型的房车穿越土地在找工作。
这个群体有多大?一位叫做卞中佩的作者曾写过一篇文章,用非常翔实的资料阐述了移动房的历史与现实成因,并列出具体数据:1970年,移动房居住者为200多万;1980年达400多万;到了2000年,数目将近900万。目前居住在移动式房屋的美国民众已高达2000多万人(另一说是1800万人),全美移动房园区的数目逾3.8万个。
漂流天涯出于无奈
以下这组数据来自于Mobile Homeland,可以说明居住者的经济状况:
移动房家庭平均年收入2·84万美元,居民的第一大群体是Z世代,约占23%;第二大群体是婴儿潮一代,约占22%。其中,15%居民因残疾或丧失工作能力无法就业,16%的居民是家庭主妇。其中,只有低于5%的移动房居民年收入超过10万美元——符合中国人开辆房车去旅游的想象。
Z世代刚进入社会,经济不宽裕在世界都是普遍现象,22%的老年人成为移动房一族,以1800-2000万估算,大约在400万上下。据布鲁德女士书中引用资料,在2008年美国金融危机中,许多美国人游牧民族失去了住房,有的连住房带工作都失去了。 2010年,美国收回了105.05万套房产。布鲁德提醒我们,社会保障福利是微不足道的,特别是对女性而言。她还告诉我们,在撰写本文时,只有十几个美国县和一个大都市区,一个以最低工资全职工作的人可以以公平的市场租金买得起一居室公寓。
赵婷将这部小说改编为电影,通过视象形式冲击着美国早就严重左倾的电影市场,让这个被因不同原因而忽视的庞大社会群体出现在公众视野,她得这个金球奖名至实归。这个群体被忽视的原因在美国现在过于敏感,留待以后有机会再讨论。
海外华人对母国的复杂牵缠
赵婷本人在中国先热后冷的遭遇,则与中国人基于内心自卑而扭曲的国家自信有关,也与海外华人不想脱离母体的文化脐带这种生存状态有关。
扭曲的国家自信决定了中国的粉红们内心极度脆弱,情绪表达非常夸张。海外华人只要获得一点成就,国内无论是官方宣传还是粉红军团都会与有荣焉。不管那位华人是否有过在中国成长的经历,是否会说中文,对中国的认同感有多大,一厢情愿地将其当作心向祖国的“统战对象”。但一旦发现这位“统战对象”曾批评过中国的某种社会现象或中国政府,比如象赵婷,被中国网络侦探挖出了2013年美国一家电影杂志对她的采访。在采访中,赵婷曾批评中国是一个“到处都是谎言的地方”,还曾说过“归根到底,美国现在是我的国家。”赵婷不可避免地从“华人的骄傲”成为“辱华者”与“阴阳人”。受到这类待遇的不是她一个人,有兴趣的人可以去网上搜索。
海外华人不想、也不能脱离文化母体生活,有澳大利亚独立智库洛伊研究所(Lowy Institute)的一项调查为证。洛伊研究所3月初公布了一项对华裔澳洲人的调查:Chinese In Australia 显示,这项调查在中澳关系严重恶化的2020年之后展开,展示了华人移民在移居国地位的脆弱性,以及他们与母国之间牵缠纠结的心态。
许多澳洲华人告诉洛伊研究所,2020年之前,他们觉得澳洲社会越来越欢迎他们。但2020年之后,近半数受访华人担心中共对澳洲政治的影响。有近20%的澳洲华人说,他们在过去一年中受到过人身威胁或攻击,大多数人将这归咎于疫情流行造成的紧张局势或堪培拉和北京之间的敌意;约1/3的人说,他们曾遭受过言语虐待或歧视性待遇。
该调查的发起者之一卡萨姆(Natasha Kassam)说,调查显示了普通华裔澳洲人是如何遭受日益紧张的政治局势和憎恨的打击的。她说:“过去一年,澳洲围绕中国展开的广泛辩论发生了变化,特别是在外国干预和经济胁迫方面,这确实似乎是让澳洲华人在其中受到冲击。”
调查还证实,澳洲华人主要从微信和中国媒体获取新闻:约84%的受访者在微信上看中文新闻;74%的人阅读中国大陆新闻,包括新华社等官方媒体的报道;只有约1/3的人认为,澳大利亚媒体对中国的报道是公正和平衡的。
最有意思的是这一组数据:受访者当中,有64%不在意民主,43%比以前更爱中国的政府体制(China’s system of government)。这组数据显示了两个问题:在对中共政治体制和民主的态度上,不仅在华人与澳洲社会之间存在着巨大认知裂沟,在华人社区内部也如此。
海外华人因为不喜欢中国或者想追求更美好的生活来到国外,然后在移民生活的烦劳与远距离看中国产生的美感夹击中,多处于澳大利亚华人这种状态。
最后对“赵婷问题”做个总结:赵婷这部《无依之地》本来只是想触及美国移动式房屋居民——在美国大地上流浪的“本土外乡人”的生存困境,却因获奖而触发了中国人对海外华人与母国那极其复杂的情意结,实非她本愿,但却是海外华人将长久经历的一种精神煎熬。